まだ新人だった頃、ベテラン狩猟者から厳冬期の北海道におけるスキー忍び猟の指導を受けたことがある。
その時、「立ち木に寄りかかって撃つ時は、銃身が木の幹に触れないように気を付けなければいけない」というアドバイスをいただいた。「銃身の一部が急激に冷やされて、収縮した方に弾道がそれるからだ」という理由からだった。
厳冬期の北海道では、朝の気温が-15℃を下回るのはよくあることで、日が昇って多少気温が上がっても、木の幹の温度はそう簡単には上昇しない。
さらに空気と、個体である木の表面では熱伝達率が全く違う。銃身の一部が幹に触れていれば、そちらが急激に収縮するという説明は、私にとって実に納得できるものであった。
「鉄で出来た銃身がそう簡単に収縮するものなのか?」と疑問に思う方もいるだろうが、鉄の場合、温度が1℃上昇すれば1mあたり11.7μm
(=0.0117mm)の寸法変化が生じる。
仮に日の出後の気温が-5℃、木の幹の温度が-15℃だったとしたら、その温度差は10℃になり、1mあたりの寸法変化は0.117mmにもなる。
これを大したことのない量と見るか、射撃精度に大きな影響を与える歪みと見るかは意見が分かれるかもしれないが、私は無視できない影響があると思う。
スラッグ弾の手詰めをしていると、ワッズに入れた弾頭をスムーズに銃身を通るか細い棒で押してみて、銃身を通り抜ける時の抵抗を調べることが時々ある。夏場の気温が20℃以上ある時にはほとんど抵抗なく通った弾頭が、冬にほぼ零度近くなった銃身で試してみると、すごい力で押さないと銃身を抜けることができなかったという体験もしているため、私は温度差による銃身の収縮量は決して小さくないと思っている。
そういったことがあったため、私は、銃の種類に関わらず、銃身に何かが触れた状態では撃たないように気を付けている。銃身での依託射撃など問題外である。
撃つ時はもちろんなのだが、そもそも私は、銃身に直接触れたり、銃身に何かがぶつかったりしないようにいつも気を付けている。銃の手入れ以外では、銃身を直接触ること自体にとても抵抗を感じる。
銃身は、射撃精度を直接左右する重要なパーツである。
外側から余計な力がかからないようにいつも気をつけている。