べとさんとたいちょ~さんからいただいたコメントに触発されましたので、今回は、北海道で有害駆除で捕獲された個体を受け入れていた加工処理場をめぐる顛末についてお送りします。
近年急増するエゾシカによる農業被害に悩んでいた北海道の足寄町は、1996年に町営によるエゾシカの解体処理施設を作り、駆除個体の買い取り、およびエゾシカ肉の加工・販売の取り組みを始めました。
なお、この町営「エゾ鹿解体処理加工施設」では、報奨金1万円で駆除個体を引き取り、加工・販売していたとのことです。(参照:
ルポ・エゾシカ猟の実情)
この取り組みは当時、エゾシカ有効活用の先端事例として注目され、マスコミでもたびたび紹介されていました。その詳細については、こちらのサイトを参照して下さい。
かちまいジャーナル:エゾシカは今[4]-資源-
中国新聞:シリーズ「猪変」第5部 食らう
エゾシカを食卓へ(下)・黒字転換へ運営試練
これらの記事にもあるように、当時から採算を取るのには苦労していたようです。
ところが足寄町は、平成16年3月31日をもってシカ肉の販売を中止しました。
足寄町:エゾシカ肉販売中止のお知らせ
その理由として挙げられていたのが、「兵庫県におけるシカ肉の生食を原因とするE型肝炎ウィルス食中毒の発生及び米国におけるシカの慢性消耗病(CWD)の増加による日本への感染の懸念等」とのことでした。
CWDというのは北米で発生したシカの病気です。異常プリオンが原因らしいということで、当時は、いわゆる狂牛病(BSE)との類似性が取りざたされていました。
なお、CWDについては、北海道庁やエゾシカ協会も積極的に調査を行い、情報公開に努めています。今のところ、北海道における感染例は報告されていないとのことです。
シカの新しい病気「CWD(慢性消耗病)」について
足寄町にとっては、ちょうどBSEが話題となり、食肉の安全性が厳しく問われ始めた時期でしたので、ただでさえ採算が厳しいのに、この上に厳重な安全対策を講じる余裕がないとの判断だったのでしょう。
銃による捕獲個体の受け入れを行ってきた、先進的な解体処理施設の活動停止のニュースは、私にとっても衝撃的でした。
エゾシカの有効活用に関する北海道庁の取り組みも、ここ数年「一時養鹿」へと大きくシフトしてきたのも、この足寄町の施設が閉鎖されたことと無関係ではないと思います。
銃猟や駆除で捕獲した個体を食肉として利用する際に、安全性の確保と採算性の両立がいかに難しいかということを、この足寄町の事例は示しています。
ところで、足寄町の事例を紹介していた中国新聞の「猪変」というシリーズは、猪害実体とその対策、食肉としての有効活用等について、多様な角度から取り上げた渾身のルポになっています。
中国新聞:シリーズ「猪変」
非常に勉強になりますので、この問題に興味のある方は是非一度ご覧下さい。
ずいぶんと昔、ニュージーランドで増えすぎたシカを駆除するのに、ヘリコプターを使って上空から射殺している様子をテレビで見たことがあります。
射殺した獲物を回収していたかどうかは、その映像では分かりませんでしたが、単に射殺しているだけだとしたら、そのようなやり方に嫌悪感を感じるハンターも多いと思います。
日本人として、殺した獲物は無駄には出来ません。
ハンターといえども、いや、むしろハンターだからこそ、無駄な殺生はしたくないという、強い倫理観を持っていると私は信じたいです。
とはいえ、前にも書きましたとおり、捕った獲物をすべて自分で消費しなくちゃいけないというのなら、捕れる量には限度があります。
出来れば、捕獲したシカは流通に回して、食肉などで有効に使用してもらいたいと思います。
ところで、狩猟や有害鳥獣駆除によって捕獲したシカを流通に回すには、大きな制約がありまして、食肉として商業ベースで流通させるためには、次の大きな2つの課題をクリアしなければいけません。
その課題とは、1つ目が安定供給の問題、2つめが食肉としての品質保証、すなわち、安全の確保と味の保証という問題です。
まず安定供給の問題については、銃猟による捕獲では、そもそも捕獲量の季節変動が大きく、肉質も季節によって変わってしまうという弱点があります。
また、味の保証に関していえば、厳冬期でも、捕獲して30分以内に内臓の摘出・放血を行わないと、著しく食肉としての品質が落ちると言われています。
現実問題として、現場で捕獲したシカを30分以内で、処理場に運搬するというのは不可能に近いことですので、品質の高い肉を得るためには、捕獲現場での開腹・放血が不可欠となります。
しかしながら安全の確保に関して、現場で開腹したエゾシカは、食品衛生法の関係で食肉として流通に回せない、という大きな制約があります。
このエゾシカ肉に関する流通の制限については、こちらをご参照ください。
衛生マニュアルが実現させるエゾシカ肉の有効活用
このように、銃猟で捕獲したエゾシカを流通に回すには大きな制約があり、いったん射殺してしまった獲物はなかなか流通に回せないというのが現実の所です。
それならば、射殺するよりも生け捕りにして、一時的に飼育した個体を、きちんと許認可を受けた処理場で解体して流通に回した方が、有効利用という観点からは効率的だという提言が最近なされています。
この方法を「一時養鹿」あるいは単に「養鹿」といいます、最近北海道で非常に注目されている方法です。
7/12付けのエントリ「
エゾシカ問題について考える その1」で紹介した前田一歩園が、この課題についても最先端での取り組みを行っています。
前田一歩園での一時養鹿の試みについては、こちらをご参照ください。
エゾシカの生体捕獲による一時養鹿の可能性
さすがに森林保全のためのエゾシカの管理については、北海道でも最先端をゆく前田一歩園です。
ネットによる樹木保護 → 銃による有害駆除 → 給餌による被害軽減、というさまざまな試行錯誤を重ねた結果、生け捕りによる頭数調整と「一時養鹿」による捕獲個体の有効活用を組み合わせるという方法にたどり着いたということのようです。
また前田一歩園の試みにより、生け捕りという方法ならば、銃による捕獲よりも、大量のエゾシカを安全に捕獲できることが明らかにされました。
北海道庁も、政策としてこの一時養鹿を推進することを決定し、これから道有林を舞台とした取り組みを進めるそうです。
趣味としての狩猟の価値を否定するつもりは毛頭ありませんが、頭数管理のために効率的捕獲と獲物の有効活用、この2つを両立する手段としては、現時点ではこれが最善策だと私も思います。
私自身、以上のような問題意識から、最初に取った第1種銃猟免許に加えて、「網・わな」の狩猟免許も追加取得しました。
これからは銃猟と共に、一時養鹿についての勉強もしていきたいと考えています。
獲物の有効利用に関連して、今回は有害鳥獣駆除について少し考えてみます。
そもそも、趣味の狩猟ならともかく、公的な目的でシカの頭数調整を行うのに、獲物の処理についての責任が狩猟者に押しつけられがちな、今の現状はおかしくないでしょうか?
有害鳥獣駆除に関して言えば、捕獲した獲物の処理については、頭数調整を実施する公的な機関が責任を持つべきである、私自身は常日頃からそう考えています。
駆除従事者への報酬の代わりに、捕獲した獲物を自由にしていいという、現物支給的な考え方がまかり通っているのが、そもそもの問題だと思います。
猪や熊など、駆除で捕獲される獲物の商品価値が高い地域では、駆除に参加できる権利が既得権益化していて、駆除隊に参加させてもらえるハンターと参加させてもらえないハンターとの間に、軋轢が生じている地域もあるという話も耳にしたことがあります。
うちの地元では、猟友会に入っているハンターは駆除隊へ総動員されていますので、その意味では不公平感はないのですが、駆除の手続きは村役場によって行われ、許可証出したら後はほったらかしという状態です。
弾代などの必要経費や日当に関する話も、獲物処理に関する指示等もまったく無し。
どうやら猟期以外の捕獲を認める代わりに、必要経費は各自で負担しなさい、捕獲した個体の処理については各自で責任もってね、ということらしいです。
これでは、形を変えた「狩猟」だと言われてもしょうがないですね。
こんな無責任な形で許可証を交付しておいて、駆除を行うかどうかは各自の自由意志にまかせるということであれば、猟期以外の獲物は必要ないから自分は捕らない、ということになると思います。
実際に、自分はそうです。
最低限、駆除個体の処理について地域で明確な対応策が打ち出されない限り、私自身はボランティアとしての駆除は行わないつもりです。
今日は、狩猟や駆除で捕獲したエゾシカの有効活用について考えてみます。
私が狩猟を始める前のことでした。
私とは年が近くて、以前から親しくさせて頂いていた先輩ハンターに、増えすぎたエゾシカの頭数調整を考えて狩猟を始めようと思います、と話したことがあります。
その人からは首をかしげながら「でもねえ、自分たちで食いきれるシカ肉の量なんて、たかがしれてると思わない?それで頭数管理なんてできるかなあ?」と言われてしまいました。
実はその人は、職業として野生生物管理を専門とするプロの方だったので、その時は意外な反応に心外な感じがしたのですが、今になって私もその人の言葉の重みが理解できるようになってきました。
日本人である私にとって、自分の手で殺した獲物は、無駄にすることなく美味しく食べることこそ、その獲物に対するなによりの供養になるのであって、無駄な殺生は現に慎まなければいけない、という気持ちが非常に強いです。
このような倫理観は、ほとんどのハンターに共通していると思います。
しかしながら、うちは夫婦と乳児の3人家族なので、シカ肉の消費量もたかが知れています。
実際、以前知人からシカのモモをまるごともらった時は、食べきるのに数ヶ月かかりました。
仮に、80kgのエゾシカを捕獲して、可食部分がその1/4だったと仮定すると、1頭捕ると一気に20kgもの肉が手に入ってしまいます。
20kgの肉を食べきるのって結構大変だと思いませんか?
自分で食べきれないのであれば、親戚や知人に配るという手もありますが、それだって限度があります。
だいたい、処理が完璧な美味しい肉ならともかく、処理が悪くてちょっと味が落ちる肉だと、人にあげるのも気が引けますね。
実際、私の知り合いの中には、北海道育ちで親戚にハンターがいたために、しょっちゅうエゾシカの肉を食べさせられて、それでシカ肉がすっかり嫌いになってしまったという人もいます。
その人はシカ肉の臭いが大嫌い、と言ってましたので、おそらくあまり処理の良くない肉ばかり食べさせられていたのでしょう。
正直に言って、自家消費を前提にするなら、私としてはひと冬に1~2頭のエゾシカが捕れればそれで満足すると思います。
自分で食べきれない程捕って、無駄な殺生はしたくないですし。
もっとも昨シーズンは、その1頭すら捕れなかった私ですが・・・○| ̄|_
ところで、私みたいに年間にシカを1~2頭しか捕らないハンターばかりだったとしたら、地域の生息数管理は成り立つでしょうか?
エゾシカの自然増加率は、20~30%はあるとのことです。
うちの村で、仮にシカが100頭いるとしたら、増加を抑えるには、最低でも年間20頭は捕獲しなければいけません。
うちの村にいる現役ハンター3人で頭割りにしたとすると、1人あたり6~7頭は捕獲して、自家消費しなくちゃいけない計算になります。
そんなに食えるか~、って思いません?
ちなみにこの3人、昨年は1頭のシカも捕ってなかったりします。(^_^;
だいたい、目撃機会の多い秋のライトセンサスでは、うちの村内で10km走って20頭くらいの目撃があるのは珍しくありませんので、村全域でのシカの生息数は100頭を越えているのはほぼ確実だと思われます。
そうすると、ハンター1人あたりの捕獲ノルマはさらに多くなるわけですね。
このようなことを考えていると、自家消費を前提とした頭数調整には無理がある、私にはそう思えてならないのです。
このお話、長くなりますので続きます。
堅苦しい野生動物管理のお話はちょっとお休みして、私が射撃の際に使っている道具に関する小ネタをお送りします。
記念すべき第1回目のネタは「なんちゃってマシンレスト」です。
この写真は、私がグルーピングを取る時などに良くやる依託射撃の様子です。
先台を支えているのは、
Far East Gun Sales で購入した、樹脂製のハンディレスト(¥4,725)ですが、銃床の方は、ホームセンターで約3千円で購入した「マルチアングルバイス」で固定してあります。
「マルチアングルバイス」というのは、要するに角度が自在に変えられる「自在万力」のことでして、銃床だけでもこれで固定しておけば、たとえ銃から両手を離しても狙点は動きません。
またバイスの角度が自由に変えられるので、狙点の微調整も銃を固定したまま行うことが出来ます。
これ一つで、ちょっとしたマシンレストみたいな気分が味わえます。
この写真を見ていただければ分かるように、自在万力は、本体を机に固定するクランプの部分と、物を挟むバイスの部分を、球状ジョイントでつないだ構造になっています。
バイスの部分はゴムで出来ていますので、銃床に傷が付く心配はありません。
上の写真では反動のないエアライフルを乗っけていますが、私はM870でのスラッグ射撃の時にもこの自在万力を使っています。
スラッグ射撃の時には、球状ジョイントを固定しているねじを、ほんのちょっとだけゆるめにしておくと、発射時にはジョイント部分が動いて、万力本体にかかる強烈な反動を吸収してくれます。
もちろん、肩付け・頬付けをちゃんとしておかないと、銃が跳ね上がって、どこに行くか分かりませんので、試してみる時には十分お気を付け下さい。
もともと、M870のボアサイティングをする時に、取り外した銃身を机に固定するために持って行った自在万力だったのですが、ちょっとした思いつきで、意外な使い道が見つかりました。
レストは持っているけど、マシンレストまではちょっと手が出ないな~という方には、非常に安上がりでお勧めの方法です。