雪の深い時期、エゾシカが森林のどこに集まるかという目安を付ける基準として、私が注目している立地条件は以下の通り。
1.水飲み場として、冬でも水面が出ている川がある
2.風雪を避けるための針葉樹人工林が近くにある
3.日が当たると暖かい、広葉樹主体の南向き斜面がある
これらの条件の中で私が最も重視しているのが水飲み場の存在である。
詳しく調査したわけではないが、雪が深い時期のシカの移動距離はそれほど長くなく、1日の行動の中で、水飲み場と寝屋を往復しているような印象がある。
だからシカが頻繁に通う水飲み場がわかれば、その周辺がシカの生活圏である可能性が高い。
そこで、これらの条件に合う場所を地図や空中写真から探して、それからまず川沿いに下見に入る。
雪面に残ったシカの足跡を見て、その場所のシカの密度・行動などを推測し、どれくらい使える猟場か見当を付けていく訳だが、流路の方向に対するシカの足跡の付き方で、シカの居場所や行動パターンも変わってくる。
もしシカが頻繁に通る足跡(シカ道)が川に沿って付いているならば、シカが流路を通路として使っていたり、河畔林を餌場にしたりしていると思われる。この場合はシカが川沿いにいる時間が長いので、こちらも川に沿って歩けばシカに会える可能性が高い。
問題は、シカ道が流路に対してほぼ直角に付いていて、まっすぐ尾根に向かって続いているパターンである。
この場合、シカは基本的に尾根の上を生活圏にしていて、水を飲みに来るときにだけ川に降りてくるという行動パターンを繰り返していると思われる。
以前私は、エゾシカの寝屋を調査したこともあるが、シカの寝屋は水飲み場からそれほど遠いところではなく、川から少し登っただけの、見通しの良い小さな尾根の上や、その中腹にあることが多かった。
この「見通しが良い」というのが困りもので、川沿いに歩いてくる人間などひと目で見つかってしまうような場所にシカの寝屋があったりする。
こういう小高い場所に隠れているシカを、より高い尾根から攻められないか、私も何度か試してみたことがある。
シカは斜面の下方への警戒心は非常に強いが、上方から近づくものへの警戒心は比較的薄いという話を聞いたことがあったからだ。
しかし、太い尾根に取り付いてしまうと、なかなか斜面下方を見通すのは難しく、細かく割れた小尾根をいちいち降りていってチェックして回るのが大変だったため、すぐに挫折してしまった。
私の場合、尾根側から寝屋を攻めるスタイルでエゾシカを発見できたことはこれまで一度もない。
結局、シカが頻繁に川沿いを歩いている場所を選んで、こちらも川沿いを歩いて攻めるというやり方が私のスキー忍び猟の基本的なスタイルになってしまった。
尾根の上にいるシカを攻められないというのは、狩猟者としてヘタレ過ぎるのではないか、と思わないでもないが、最も確率が高い方法を選んでいるうちにこうなってしまったので仕方がない。
もっとも、常に川沿いでシカ猟を行うことのメリットもある。
水の流れる音のおかげで、シカがこちらの立てる物音に気づきにくいような気がするのだ。だから私はウェアの擦れる音などにはほとんど気をつけていない。
もうすぐヒグマが冬眠して、私にとってのスキー忍び猟のシーズンが始まる。
そのための前段階として、まずは川沿いに歩いて、シカが沢山歩いている川辺を見つけることから始めるつもりだ。