先日の誤射による死亡事故について、私も、獲物の姿を見ずに撃つのが全面的に悪いという見解なのですが、少し視点を変えて、周囲の狩猟者の行動にも誤射を誘発するような要素が存在しないかどうか考えてみました。
私はグループでの巻狩りの経験がありませんので、あくまで想像に過ぎませんが、タツマに入った人にとって、「もし自分が外したら、頑張ってくれた勢子や他のタツマの人たちに申し訳ない」というプレッシャーを感じることはないでしょうか?
もしかしたら実際に外してしまった時に、「なにやっとるんじゃ! お前が外したせいで、わしらの努力が水の泡だわ!獲物が来たらすぐに撃てるようにちゃんと準備しとけ!」と誰かに責められた経験がある方がいるかもしれません。
昔からグループ猟をやっているベテランの方々ほど、若い頃にそういう叱責を受けた経験がある可能性は高いと思います。このような経験がある方は「とにかく早く撃たなければ!」というプレッシャーが強いのではないでしょうか。ベテラン狩猟者による誤射の背景にはこういった事情もあるかもしれません。
最近では、グループ猟で外した人が責められたという話は聞きませんが、「いつでも撃てるように歩くときも弾は込めとけ」というように、危険な指示を出すベテランは確かにいます。自分自身は事故を起こさなくても、周りの人間を事故に追い込むような言動を取りがちな狩猟者の存在には要注意です。
そういう狩猟者がいるグループとは距離を取るか、何を言われても聞き流して、自分だけは安全行動を徹底するという考え方も必要です。またグループ内で「猟果よりも安全こそが最優先。皆で楽しく猟が出来るのが一番!」という雰囲気をちゃんと作れることは、事故防止に大きな効果があると思います。
一方、撃たれるのを防止するための行動についても考えてみたいと思います。私は、オレンジベストを着用していたかどうかは本質的な問題ではないと考えています。狩猟者自身が目立つ服装をしていれば、誤射される危険性は減りますが、それでも過信は禁物です。しょせん見えない時は見えないのです。
例えば林業の現場では、「重機の運転席から周囲の人間は見えないと思え。重機の作業範囲に入ってはいけない」と教えられます。誤射した側を擁護する訳では決してありませんが、狩猟者であるならば、他のグループの猟場に立ち入れば、いつ事故が起こってもおかしくないという認識は必要だと思います。
乱場での猟は「早いもの勝ち」という大原則があります。他のグループが入っている山であれば、隣接する山での狩猟は避けるべきです。
もしも、こちらが先に入っているのに強引に割り込んでくるグループがあれば、撃たれないようにこちらの存在をしつつ撤退するといった対応も必要かと思います。これは縄張り争いとは別次元の問題です。
だから我々狩猟者は、常に他者の存在に気を配る必要があります。林道の轍や、車止めに駐車されている車などから、自分より先に山に入った人間がいないか判断し、もし他に人間がいる気配を感じたら、そこでの狩猟は即刻中断する。こういった判断は、自分が誤射をしないためにも絶対に必要なことです。
ちなみにこれは相手が狩猟者であるかどうかは関係ありません。釣り人、山菜やキノコを取る人、登山やハイキングを楽しむ人など、人の気配を感じたら、すぐに猟を止める必要があります。ただお互い狩猟者であれば、銃をもった狩猟者には特に注意すべきだということを忘れないようにしたいものです。
今回の事故は、同じグループの人でも、全く無関係の人でもなく、別のグループの人が撃たれたという、あまり聞いたことがない事故のパターンだと思いました。隣接した山で複数のグループが猟を行ったことが、事故の遠因になったのかもしれず、どちらかが避けてさえいれば、もしかしたら事故は起きなかったかもしれない…と感じました。
「獲物を見ないで撃つなんで信じられない!」という声を良く聞きます。私も全く同感です。でも、誤射した人を責める以外にも、周囲の狩猟者が気を配ることで事故を減らせる可能性があるのではないかと思って、以上のことを書きました。
このような痛ましい事故が二度と起こらないことを心から願います。