ずいぶんと昔、ニュージーランドで増えすぎたシカを駆除するのに、ヘリコプターを使って上空から射殺している様子をテレビで見たことがあります。
射殺した獲物を回収していたかどうかは、その映像では分かりませんでしたが、単に射殺しているだけだとしたら、そのようなやり方に嫌悪感を感じるハンターも多いと思います。
日本人として、殺した獲物は無駄には出来ません。
ハンターといえども、いや、むしろハンターだからこそ、無駄な殺生はしたくないという、強い倫理観を持っていると私は信じたいです。
とはいえ、前にも書きましたとおり、捕った獲物をすべて自分で消費しなくちゃいけないというのなら、捕れる量には限度があります。
出来れば、捕獲したシカは流通に回して、食肉などで有効に使用してもらいたいと思います。
ところで、狩猟や有害鳥獣駆除によって捕獲したシカを流通に回すには、大きな制約がありまして、食肉として商業ベースで流通させるためには、次の大きな2つの課題をクリアしなければいけません。
その課題とは、1つ目が安定供給の問題、2つめが食肉としての品質保証、すなわち、安全の確保と味の保証という問題です。
まず安定供給の問題については、銃猟による捕獲では、そもそも捕獲量の季節変動が大きく、肉質も季節によって変わってしまうという弱点があります。
また、味の保証に関していえば、厳冬期でも、捕獲して30分以内に内臓の摘出・放血を行わないと、著しく食肉としての品質が落ちると言われています。
現実問題として、現場で捕獲したシカを30分以内で、処理場に運搬するというのは不可能に近いことですので、品質の高い肉を得るためには、捕獲現場での開腹・放血が不可欠となります。
しかしながら安全の確保に関して、現場で開腹したエゾシカは、食品衛生法の関係で食肉として流通に回せない、という大きな制約があります。
このエゾシカ肉に関する流通の制限については、こちらをご参照ください。
衛生マニュアルが実現させるエゾシカ肉の有効活用
このように、銃猟で捕獲したエゾシカを流通に回すには大きな制約があり、いったん射殺してしまった獲物はなかなか流通に回せないというのが現実の所です。
それならば、射殺するよりも生け捕りにして、一時的に飼育した個体を、きちんと許認可を受けた処理場で解体して流通に回した方が、有効利用という観点からは効率的だという提言が最近なされています。
この方法を「一時養鹿」あるいは単に「養鹿」といいます、最近北海道で非常に注目されている方法です。
7/12付けのエントリ「
エゾシカ問題について考える その1」で紹介した前田一歩園が、この課題についても最先端での取り組みを行っています。
前田一歩園での一時養鹿の試みについては、こちらをご参照ください。
エゾシカの生体捕獲による一時養鹿の可能性
さすがに森林保全のためのエゾシカの管理については、北海道でも最先端をゆく前田一歩園です。
ネットによる樹木保護 → 銃による有害駆除 → 給餌による被害軽減、というさまざまな試行錯誤を重ねた結果、生け捕りによる頭数調整と「一時養鹿」による捕獲個体の有効活用を組み合わせるという方法にたどり着いたということのようです。
また前田一歩園の試みにより、生け捕りという方法ならば、銃による捕獲よりも、大量のエゾシカを安全に捕獲できることが明らかにされました。
北海道庁も、政策としてこの一時養鹿を推進することを決定し、これから道有林を舞台とした取り組みを進めるそうです。
趣味としての狩猟の価値を否定するつもりは毛頭ありませんが、頭数管理のために効率的捕獲と獲物の有効活用、この2つを両立する手段としては、現時点ではこれが最善策だと私も思います。
私自身、以上のような問題意識から、最初に取った第1種銃猟免許に加えて、「網・わな」の狩猟免許も追加取得しました。
これからは銃猟と共に、一時養鹿についての勉強もしていきたいと考えています。